第六十三段「三軍の親は、間よりも親しきは無く」

 
再び用間編から。


ここでは、スパイを使用する際の「君主」


即ち政策決定者の心構えといったものが述べられています。


「そこで全軍のうちでも、
君主や将軍との親密さでは間諜が最も親しく、
恩賞では間諜に対するのが最も厚く、
様々な軍務では間諜の行うのが最も秘密裏に進められる。
君主や将軍が俊敏な思考力の持ち主で無ければ、
軍事に間諜を役立てる事はできず、
部下への思いやりが深くなければ、
間諜を期待通りに忠実に働かせる事ができず、
微妙な事まで察知する洞察力を備えていなければ、
間諜のもたらす情報中に潜む真実を選び出すことができない。
なんと計りがたく、
奥深い事か、
およそ軍事の裏側で、
間諜を利用していない分野など存在しないのである。 
君主や将軍が間諜と進めていた諜報・謀略活動が、
まだ外部に発覚するはずの無い段階で、
他の経路から耳に入った場合には、
その任務を担当していて秘密を漏らした間諜と、
その極秘情報を入手して通報してきた者とは、
機密保持のため、
ともに死罪とする。」




 前段までの諜報活動の重要性を踏まえて、最初の段落では、間諜を如何に扱うかについて述べられている。



第一に政策決定者、軍指揮官と間諜の意思疎通の重要性、
第二に間諜に対する恩賞の重要性、
第三に間諜の行う任務の秘匿の重要性が述べられている。



政府及び軍指揮官との意思疎通がままならない状態では、いかに優れた間諜も、その任務の最も重要な点の一つである「情報の伝達」を完遂することは困難となる。そして恩賞を十分に与えなければ、「反間」の事態を招く事にもなりかねず、また常に生死を争う事態に自らを投げ込むような間諜の任務の性質に鑑みれば、厚く待遇する事は合理的であり、そうでなければその士気にも関わるであろう。そしてその任務の秘匿性が確保されなければ、その任務の成功率は限りなく低くなるであろう。まさに「兵とは詭道」なのである。
 


 次の段落では政策決定者、軍指揮官の心構えといったものが説かれている。諜報活動全般に及ぶ物事の判断が優れていなければ、如何に貴重な情報であってもそれを生かすことはできず、間諜の生死を賭した職業的運命を配慮する思いやりがなければ、その忠誠を保つ事はできず、情報評価が確実に行われなければ、敵国のディスインフォメーションにあっさり乗せられてしまうような事態を引き起こす事となる。 「およそ軍事の裏側で、間諜を利用していない分野など存在しないのである」この言葉は、現在の我が国が最も認識しなければならない言葉の一つであるということができよう。 



 最後の段落では、機密保持の重要性を説いている。諜報・防諜活動そのものの漏洩は、その規模によっては国家の存亡を左右するものともなる。ここでは関わった者全てを死罪とするとされるが、現代においてこれを解釈するならば法に則った処罰及び対処を行うものと解釈するのが適当であると考えられる。ここで死罪と述べられているのは、「厳格な対処が必要である」との意味を特に含んでいるのであろうと考えられるからである。防諜活動をも念頭に置いた先人の兵法から、我々が学ぶところは非常に大きい。法に則り処罰するべき行動が存在するにも関わらず、準拠すべき法が存在しない我が国の実態というのは非常に危険な状態であると言わざるを得ない。


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